「何も無い」に悩んだときに見つけた答え | DOOR-MAGAZINE 「何も無い」に悩んだときに見つけた答え | DOOR-MAGAZINE

「何も無い」に悩んだときに見つけた答え

 

DOORでは個人の”アイデンティティ”をとても大切にする文化があります。「個を深く知るためのワークショップ」は、あの人の知らなかった一面や隠された本質を掘り出していこうという企画です。堅苦しいのは苦手なのであくまでゆる〜く、カジュアルな雰囲気を目指します。

この記事に登場する人

田中裕一

コピーライター、クリエイティブディレクター。企業理念やコンセプトを構築し て、ビジョン・ミッション・バリューをまとめ、持 続的にブランディングをクライアントと並走しなが ら実施。社員の方に向けたインナーブランディング も実施することで、社内体制を整えていくサポート も行う。 いちゃいちゃし続けるレーベル「101010(https://101010-tototo.com/)」を運営し、唐辛子メーカーやコーヒー屋とのコラボアイテムを開発。誰かの10年を聴くポッドキャスト番組「101010 RADIO(https://101010-tototo.com/category/radio101010/)」も配信中。

話し手:田中裕一 聞き手:迫田夏幸

キーワード:#ビジョン #コピーライティング #起業 #ラジオ

田中裕一の「できること」「楽しいこと」「好きなこと」

  1. 志は低く、面白いことをしたいという一貫性
  2. ビジョンのない生き方を肯定するまでの話
  3. 適材適所
  4. クリエイティブは日常から
  5. ごちゃごちゃをシンプルにする仕事
  6. 普遍的なものを愛して
  7. 行き当たりばったりでも良くない?

今日はコピーライターの田中裕一さんのお話を伺います。本日はよろしくお願いします!

いやあ、みんななんか真面目だなぁ、キーワードに漢字が多いなぁと思っちゃって(笑)
だから今日はね、もう難しいことを言わない。この流れをぶち壊していきます。

まだインタビューが控えている数名にちょっと風を吹かせましょう(笑)

志は低く、面白いことをしたいという一貫性

そもそもコピーライターになった理由ってありますか?

志高く、始めたわけではなく、たまたまなったんです。「こんな仕事をしたい!」っていう気持ちはありませんでしたね。

あ、そうなんですか!

コピーライターになりたいとか、コピーライターで賞とりたいとか、特にはなくて。志を高く持って、何かをやるわけじゃなくて常に何か面白いことを考えていたいなって。そこにオンオフってないんですよ。なんでも仕事には生きるし、結局仕事が趣味になって、全てを仕事に生かしたいっていう気持ちはありますね。

仕事が趣味ということは、仕事の内容が趣味なんでしょうか?

そうね、結果論としてコピーライターを仕方なくやってるけど(笑)できることがないから。
もしそば打ちとかができるんだったらそば打ってるし、パソコンとかパチパチするっていうのも苦手なので、できないなと。

なるほど。苦手なものを、自分の中ではっきり分ける基準ってあるんですか?

苦手なことを、そもそもやろうと思わないですね。例えば、「こういうところがメンバーに足りてないから、自分が努力してやる」って、SASIの若い人たちみんなするじゃないですか。「立派だな。」って。

確かに。SASIにはそういう人の方が多い印象はあります。自分が普段やらないことだからこそ頑張ってみるみたいな。

田中の場合、仕事が目的と成長のお題を与えてくれるので、ぼくは自らこうなりたいっていうのはなくて、たまたま出会ったクライアントや仲間が、「こうした方がいい」とか「こうしなきゃいけない」ってお題を与えてくれます。だから、「新しいことをやろう」って。できるんだったら、 YouTubeだけ見て暮らしていきたい(笑)

すごく理想的で憧れる考え方です(笑)

あとは、自分の使い方をどう知るかが大事かなと思ってて。その中で、せめて人の役に立とうと思うとやっぱり仕事ありきになっちゃいますね。クライアントや仲間のために何か役に立つかなって。ただそれ以外何もない、自分に関しては目的意識がないです(笑)

必要以上に自分に期待しなければ意外といい方向に向かったりしますよね!

ビジョンのない生き方を肯定するまでの話

でも、目的意識がないままずっとコピーライターを続けているのがすごいなと思うのですが、なぜ続けられるんでしょうか?

自信がついたんでしょうね。自信がついたっていうのはどういうことかっていうと、「目的意識なんてなくていいんだよ」って言った人がいて、その人に背中を押してもらったのかなと。それがキーワードでも挙げた鈴木敏夫さん。この方が考えてることがほぼ一緒やったんですね。「志低く生きたい」とか、「自分の目標なんかない」とか。SASIだったら、ビジョンもあってそこにみんなで進もうっていう感じですよね。だから、当然SASIの考え方として理解もするし、ビジョンに向かって進んでいくべきって思いますけど、逆に目的意識を持たないって自分の軸があるから、こだわりやしがらみもなく続けてこられたと思います。

他の文化も大事にしつつ、自分の軸は貫いているんですね!

そうなんですかね、自分が一番わかっていないです(笑)鈴木敏夫さんが言っているのは、地道にコツコツやって切り開かれる未来もあるよねって。石をピュって飛ばしてそっちに行くっていう生き方も、当然否定はしないし、いいと思います。ただ、いろんな仕事を積み重ねたり、いろんな人と出会った時に見えてくるものもあると思うので、今はこういう生き方の方がいいなって。鈴木敏夫さんの教えはかなり自分に影響を与えてるって思います。ほんといい加減なんですよ、敏夫は(笑)

「これでええんや」って思わせてくれる天使的な側面もあるけど、逆に言うと思わせられてしまったみたいな悪魔的側面もある感じですね(笑)

でもめちゃくちゃ戦略家と言いますか、もう世が世なら武将として名をあげるような考え方で、平気で人をバッサリ切り捨てるような感じなのでそれも面白いなって(笑)

キーワードを書き出している間に、ジブリ映画を見るのはそんなに好きじゃないとおっしゃっていましたが、どのように鈴木敏夫さんのことを知ったんですか?

小太郎さん(SASIの科田小太郎さん)もこの前社内でシェアしてたんですけど、「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」っていうラジオ番組をたまたま知りまして。面白い考えに出会うのが好きなので、聴いてみたんです。出版不況なのになぜアニメイトは地方で儲かるのかみたいな話の回を聴いてハマりましたね。で、ジブリ汗まみれを聴き続けていくと、自分の意見じゃなくて、相手の意見を徹底的に聞くことが大事だとも言っていて。「自分なんてないんだ」とか、「自分の主張とか意見ってのはないんだ」と、自分は存在はしているけど何よりも大事なのは第三者が自分をどう見てるかじゃないかっていう話をしていたんです。僕も同じ考えだったので、そうなんだと思って。

なるほど、裕一さんの人生のキーマンを見つけた運命のラジオ番組だったんですね!
そのラジオ聴きたくなってきました(笑)

適材適所の上にこそ成り立つ人の交わりを大切に

ちなみに、最近鈴木敏夫さんと同じ考え方だなって実感したことはありますか?

田中が勇輝くん(SASIデザイナーの中町勇輝さん)や和也くん(SASIデザイナーの石本和也さん)と一緒に仕事をしながら、色々お伝えしている中で、「自分のトリセツを配ろう」っていうのを伝えていることですね。例えば、Aさんはコーヒーが入れられて、Bさんもコーヒーが入れられるけどどっちを選びましょう、ってなった時に何かの理由で選ぶじゃないですか。美味しく入れられるとか、優しく入れてくれるとか。そういうのと同じように「田中はこういうことをしてくれる」っていうことを、他人にそう思われたくてやっていることもあれば、他人から勝手に思われてることもあって。誰かが「田中はきっとこんなやつに違いない」と思って僕に仕事をお願いしようと思った時に“コピーライター“っていうのはすごく狭い意味しかもたないトリセツなんですね。要は「文章だけ書いてください」っていうことが一番流通しちゃっている。でも他のことも色々やっているのが“田中“で。SASIの中でも僕のことをどう思っているのかを紐解くと各々で田中のトリセツが違うんですよ。つまり、自分をどう使ってもらうか。鈴木敏夫さんも全く同じ話をしていたんです。

確かに、自分がどんな人間で、自分を構成している要素は何かって、受け取る側に委ねていると全部異なってしまいますね。

うん。で、もう1つ言うと、チームを作るときにそのトリセツが重要で、好き嫌いではなく「この人はこれが得意だから」で選ぶのが良いんです。嫌いなヤツでも当然一緒に仕事をしなきゃいけないけど、「この人はこれができるからここにいるんだ」って。その考え方の方が健全ですよね。

トリセツを作ることって「自分はこれができる」って発信するということでしょうか?

「自分はこれができる」もそうだし、「自分はこれをやりたい」っていうのも大事ですね。田中は”かたちラボ”を2012年に立ち上げて何の実績もない時に「ブランディングの仕事をやりたいんです」って周りのデザイナーたちに言ったんですよ。これもある種、めちゃくちゃ薄いトリセツです。「できる!」でもなく、「やりたい!」だから(笑)そうするとアートディレクターの先輩に「こういうブランドのお手伝いしてるので一緒に仕事しませんか?」ってお誘いを受けることもあるんですよ。だから、「やりたい!」って、まず言っていくってのは大事なんです。例えば夏幸さんが「プロレスの仕事したいです」って言ったら、どっか頭の中に媚びりついていて「プロレスのことなら夏幸さんを誘ってみよう」ってなるんですよ。きっと「プロレスの仕事をやりたい」って言ったからには、「プロレスが好きなんだろうな」「自分より知識があるんだろうな」って思うんじゃないかなと。

考えていることを言葉として外に出すのは今日から実践したいですね。チャンスの量が格段に増えそう!

是非!やっぱりプロデューサーっていう人間になれないと思っていますね。ある種の胆力というか人間力も必要なので。SASIで言うと、清人さんもプロデューサーの1人ですよね。で、田中の大好きな元テレ東のプロデューサーの佐久間宣行さん、ゴッドタンとかあちこちオードリとか作ってる方なんですけど、この方もプロデューサーの1人で。どう楽しく仕事するかっていうことをちゃんと考えていて、「俺がおもろいでしょ」っていう喋り方をしていない。「俺がおもろいでしょ」って言うやつつまんないでしょ?あ、今のは田中じゃなくて、夏幸さんが言ったってことにしといて(笑)

もうそのまま書きます!(笑)でもその感覚わかります(笑)

いや、割とそうだよね。そのようなプロデューサーたちは努力していて、面白い人を知っているし、面白い人と仕事するから面白くなっているんだなって。

話を聞いていて、そのような方々って中身が詰まっているなと感じました。外見だけ格好をつけようとしていないところの魅力があります。

でもね、プロデューサーって、究極何もできない人っていうか、形を作るってことをしない人ですね。鈴木敏夫さんもそうです。制作管理や企画、キャスティングはするけど、実際に映画を作るのはキャスティングされた宮崎駿さんだったり。佐久間さんも面白い企画も立てるし、番組のフォーマットも作るし、仕組みも作っています。ただ目に見えているのって、芸人の方々が演者として現場を成立させているので、じゃあどこを作ってんのかって言われたら、究極やってないって言われてしまうんだろうなって。ただプロデューサーがいるから、面白い企画やパッケージができるんだろうなと思う。まさに近藤清人もビジネスの中で面白いパッケージを作っているし。プロデューサーって面白いパッケージを作って、そこにキャスティングして、その中の人たちに任せればいいっていうのは、みんな口揃えて言うんですよ。だからキャスティングが全てで、それで仕事が終わるって、究極そうだろうなと。そのパッケージに誰を呼ぶかっているのをこだわっているんだろうなっていう。プロデューサーの仕事ができるかは置いといて、彼らの気持ちには共感します。どのように人の得意なことを見抜いて、企画に呼ぶかとかに田中もこだわるし、同時に呼ばれたいという気持ちもあるしって。

裕一さんは呼ばれたい側なんですか?(笑)

呼ばれたいけど、誰も呼んでくれない(笑)でもその点でSASIはいいなと。田中を呼んでくれるから。

なぜよばれるようになったんですかね?

清人さんと最初に会ったのは宝塚商工会議所でのセミナーです。セミナーを聴いていて、初めて「自分の話を理解してくれる人と出会った」って思ったんです。クリエイティブとかデザイン業界の人たちに今SASIのやってるようなことは正直伝わりきらないと思っているのですが、SASIでいうセッションもできるし、すでに清人さんが先んじていろんなことをやってるし、だから「この人にはどうにか取り入っておこう」って思いましたね。
で、SASIってファーストネームで呼び合ってるじゃないですか?

そうですね。年齢関係なくパートナー全体なんてなかなか特殊な文化ですよね。

だからね、セミナー終わって名刺交換する時にファーストネームで呼んでみようと思って。「清人さん」って呼んでみたんです。そしたらそこが面白いと思ってくれたのか、「DOORで忘年会あるけど来る?」とか言われて、行っちゃった(笑)SASIの中でこういう風に潜り込んだ人いないと思うのよ(笑)大体、個人的な繋がりからとか、DOORのお客さんだったとか、あとはスカウトされてが正規ルートだと思うのですが。

その正規ルートの内のどれかだと思っていました(笑)

今の所、バレてないね(笑)自分の仕事の最大の肝は“いちゃいちゃする”ことで、それはクライアントの仕事でもSASIの中でもそうなんです。
SASIも「フラットであることが大事だ」って言うじゃないですか。フラットであるって本当は難しくて、肩書きとか立場もあるから上下もあるのですが、それに関係なくいちゃいちゃできれば、それでいいと思ってるんです。つまり、立場がないと決められないこともあるので。みんながフラットであるって無理ですし、フラットではなくてもいいと思いますね。

敢えて「みんな平等に」って言葉にすると、過剰に意識して空回る場合もありますよね。仕事もプライベートも境目がない裕一さんの価値観に、もう一歩近づいた気がします。

クリエイティブは日常から

ちなみに“さらば青春の光”の森田さんもプロデューサーと近い認識で。森田さんと物の作り方とかが僕とちょっと似ていたんですよ。僕は突飛な発想ができるわけではなくて、普段の話の中から企画の種とかアイデアを見つける方が好きなんです。なので雑談が好きなんですが、森田さんもそれと同じことを言っていたんです。「雑談にこそ光るものがある」って。ちなみに、宮崎駿さんも「企画は半径3メートルの中にある」って言っていて。『千と千尋の神隠し』っていう作品もちひろのモデルは知り合いのお子さんやエピソードが元になっているそうです。

ジブリ映画って、見たことも経験したこともないのに、親しみやすさとか懐かしさを感じるんですが、その理由がわかった気がします。

そう、もう半径3メートルどころじゃないっていうか。近すぎるくらいでリアリティが出るなっていう。その人のために作っていくと、その先にものすごく濃い場が生まれてくるんです。まさにSASIのアイデンティティの捉え方は、半径3メートル。その中に企画の種が落ちていると思いますね。企画の最初のポイントって自分であったり、その周りの関係性が大事。そこに注目するっていうのはやっぱりいいなと。それと関連して、さらば青春の光の森田さんのコントの作り方は、その関係性やリアリティをどうずらすかなんです。例えば、奇跡のリンゴを作るおじさんがいて。「この、めちゃくちゃ手間と労力をかけて作ったリンゴを、おじさんが最終的に『いや、これグミに使うねん』って言ったらおもろいやろうな」っていう発想。そういう「ずらし」をコントにしていて、この奇跡のリンゴ、グミに使う必要なくないか、って思わせるんです。田中が得意なのもずらしていくこととか、真正面からの図ではなくて「この肩の部分面白いですよね」っていうのを言っていくような仕事だと思ってるんです。そういう意味で森田さんとは企画の考え方やパッケージの作り方が似ているなと思いました。おこがましいですけど。

確かに、ツッコミたくなるけど、同時に「いや、ありそうだな」って思っちゃうネタですね。
じゃあ、そういう観察的な目線で、参考にしようとさらば青春の光を見てるんですか?

いやいや、基本的に見て楽しむ対象ですよ(笑)佐久間宣行さんの仕事論とかも見るんですけど、それよりも意識していることがあって。森田さんも佐久間さんもめちゃくちゃ大きく笑うんですよ。なので、「あ、自分も大きく笑おう」って。これおすすめなんですけど、打ち合わせとかあるじゃないですか。とりあえず、大きく笑っとくっていいっすよ(笑)

空気的にいい流れになりますね。リアクション大事です!

そうそう、なんかね、大きく笑っておけばどうにかなるというか。だから田中もSASIの仕事でも、自分の会社がやってる仕事でも、誰か別のチームの仕事でも、全部スタンスは大きく笑っておくってこと(笑)

裕一さんって大きく笑うに加えて、冗談を挟みながら会話されている様子もよく見る気がします。
冗談言う時って、会話に隙を探してるんですか?

いや、隙とかは何も考えずにそういう時が来るんです。当然ね、しっかり滑る日もありますからね(笑)他のメンバーにはいよいよバレてると思う。「あ、田中滑ったな」って(笑)

ごちゃごちゃをシンプルにする仕事

ここまで、色んな人の名前が出てきましたが、最初の接点はラジオが多いんですか?

自分の中ではラジオの存在は大きいかな。聞き始めたのは中学2年生ぐらいで。その時はまだFMラジオを聞いていたけど、高校ぐらいからAMを聞き始めて、芸人の方の深夜ラジオにハマっていくので、そこから徐々に腐っていくんですけども(笑)ただその番組が部室感というか、しゃべっている人は1人2人しかいないし、1人でネタハガキとかをもらう関係性がものすごく自分の好きなコミュニケーションに近くて。喋り方とか考え方とかも自分に影響与えているなあと思う。

耳から入れる情報って結構大事な気がします。

そうですね、耳から入る方が多いですね。自分にとって、効率がいいですし。真面目なラジオもカルチャー系のラジオも聞くので、情報源はやっぱりラジオや音声メディアが多いですね。

本はあんまり読まないんですか?

本はあまり読まなくなりましたね。買って満足しちゃうもんね(笑)小説なんてもうとんと読んでないです。話は変わりますが、やるやらないを決める基準はシンプルなんです。“整理整頓“もそれと似ていますね。これも鈴木敏夫さんが言っていたんですよ。情熱大陸で第一声いきなり、「仕事って掃除だから」って(笑)番組の意図的な演出ではあるんですけど、「誰このペットボトル」ってイライラしながらお掃除しているんです。

裕一さんは仕事でどう「掃除」をするんですか?

自分のアイデアというよりも、「この人って何考えてんのかな」って言うのを整理をする必要があるので。20本ぐらいコードが絡みあった混線状態をほどくか、いっそのこと切っちゃってなかったことにするかのどちらかをやっていく感じです。それが田中にとっての掃除ですかね。とは言ったものの、そこにもう1本混乱をもたらすコードを絡ましていきたい気持ちもある(笑)極力それは抑えているのですが、SASIはみんな真面目だから、なんか入れたくなっちゃう(笑)

で、観察するんですか?(笑)

観察って、そんな高尚もんじゃないけど。ただただ笑いが取りたい(笑)仕事ではちゃんとほどくようにはするけど、難しいんですよね。ほどいたつもりでほどけていない時もあるし。でも整理や掃除をしていくと見えてくるものがあるんですね。で、「よく気づきましたね」とか言われるんですけど、「これはあなたが言っていたんですよ」って毎度思います。その気づいていないことをコピーにします。そうすると、その人自身が言った言葉で作ることができるので。

なるほど。すでに出た言葉の再構築をしているんですね。

うん、本人が喋った言葉ですね。それが企業理念になっている会社も実際にあります。みんなが口揃えて言っている言葉であれば、それが最大公約数的に強い言葉なんだろうと。そう考えると、田中の仕事でトチらない理由は、聴いたことを整理しているので、変にずれないからだと思います。「こんなこと言ってない」「こんなこと考えてない」っていうことにはあまりならないです。企画やパッケージを考えるときは加工するので、多少は修正とかもあるけど、それでも言われたことをそのままやっていますね。

でも、そうやって言われたことから抜き取ることができるのは、裕一さんがその場を俯瞰で見ているからなんじゃないでしょうか?

自分が俯瞰してるか、観察してるかどっちなのか考えたことはないです。昔は、気取って観察してます面をしていたんですけど、なんかどんどんどっちでもいいかなっていう気持ちになってきています(笑)

普遍的なものを愛して

ここまでの話から、人との距離感を大事にしていらっしゃるなぁと感じました。
コミュニケーションを取るときは、この人はどれくらい近づいても大丈夫なのか測っているんですか?

うーん、それもそうだし、近づいてきてもいいけど離れておこうとかね。自分の中でその適度な距離感のラインがあるんです。占いの先生に自分の人生のテーマは“楽しむ”って言われて「いやいやみんな“楽しむ”じゃないの(笑)」って思ったんだけど、占いの先生いわく「みんながみんなそうじゃない」と。だから、距離感のラインでいうと、自分が心地よいとか楽しくなかったら違うなって言うのがポイントになっていて。その関係が楽しかったら距離感は合っているけど、もうちょっと踏み込んだ時にお互いが気まずくなって「あれこれちょっとやだな」って感じて一歩引く、とかは日常で結構あるので、距離感は掴めてると思いますね。

寄るのより引く方がタイミングとか難しいからその感覚私も掴みたいです(笑)

多分、自分がいい人間じゃない気がするんです。なんかね、嫌な人間だと思うんです。向田邦子さんが好きなんですけど、向田邦子さんのエッセイを読むと、この人は絶対意地悪い人だなって。いいこと書いているけど、意地悪い目線を持っているからこう言うことに気づくんだって思うんです。なので、田中も向田邦子さんもいい人間ではないけど、「こういうやつも居ていいんじゃない?」ってなってくれたらなって。

なるほど、社会における自分の居場所を探しながらの今なんですね。
「自分はいい人間じゃない」っておっしゃっていましたが、結構自分について考えることが多いんでしょうか?

自分について考えることはないですねえ。

じゃあ、“考えること”っていうキーワードは何についてなんですか?

道歩いてて空見て、なんか雲が動かなくて、動かない雲かと思ってこれ何か出てくるなって思ったり。去年、『NOPE』って映画を見た時に「雲が動かないぞ」って向こう側に大きい物体がいるみたいな話だったんですけど、娘と「あ、雲動かないね、いるんじゃない」とか言って。あとは、カフェで座っていて、隣から聞こえる話とかに、「どういう話してんのかな」とか「こうなったら面白いかもな」とか。だから“考える”って言ったのはちょっと気取ってますね、別になんも考えてはないからね(笑)その瞬間に見たものとか、聞いたものとか、仕事どうしようかなとか、オン・オフ関係なくずっと自分以外のことを考えています。ただ基本は何も考えずLE SSERAFIMのメンバーがずっと日本のポテトチップスを食べている動画を見ながら「あーポテトチップス食べてんなー」って思いながら過ごしています(笑)

外の何かを受け取って常に頭が動いている感じですね。
裕一さんの中での好きなものって、ずっと好きなものと、入れ替わり激しいものの2軸で存在しているんですか?LE SSERAFIMは好きになったきっかけが気になるんですよね。

LE SSERAFIMはデビュー前から好きですね。デビューからまだ1年くらいですけど。TWICEも好きですけど、家族がいなかったらはまってないですね。しかも、このコロナ禍にNiziUのオーディションを見て、そこからTWICEなどのK-POPを掘っていったという流れです。でも基本的に、長続きするものだけが残ってるって感じがしています。長く好きなものが少なくなっているので、LE SSERAFIMがそこを埋めてくれたかもしれませんね。出たり入ったりしてるものもあるんですけど、今はそれがなんなのかはわからないですね。でもベースとして人が好きなんですよ。お喋りとかいちゃいちゃするっていうのは1人じゃできないので。一番左に並べてキーワード書いたあたりの方々はもう永久に尊敬ですよ。

人の中でふらふらっと生きていくのが、裕一さんっぽさなのかもしれないですね。でも、その中でもこういう人が特に尊敬できるとかってあるんじゃないですか?

仕事仲間でプロデューサーがいる中で「この人が好き」ってなるのは、面白いと思わせるポイントがあるかどうかですね。後輩を見て、彼ら彼女らは成長してるのに、自分が止まってたらその人が持つ面白さに気付けなかったりするんで、こっちは見つけるのに必死ですよね(笑)若い人たちに、捨てられないような努力、若者にすがっていく文化を大事にしていきたいです。そのために何かを考えたり、情報を仕入れる可能性はありますけど、普遍的なものが好きなので意図的にはあんまり出たり入ったりとかはないですね。

普遍的なものとそうでないものでいうと、“くるり”と、“ヒップホップ”が真逆なところにある気がしたのですが。

これはちょうど僕らの年代だからですね。90年代終わり〜2000年代始めって、くるりなどの細分化されたジャンルの若いバンドがたくさん出てきましたし、ヒップホップも高校生の頃にDragon Ash「Grateful Days」がリリースされて、わかりやすくヒップホップがもう1段一般的なポップカルチャーになったので、売れ線の人たちもアンダーグラウンドの人たちも目に見えてきている部分があったので。ヒップホップ、あえて言うと「J-RAP」を聞くのはその世代の当たり前になっていましたね。

なるほど!音楽からは影響を受けないんですか?

ミュージシャンじゃないですから、特に影響は受けていないと思います。でもRHYMESTERっていうラップグループが好きなんですけど、仕事で一時期、歌詞とかタイトルを入れられないかなってやってた時期はあります(笑)

しっかり仕事に影響与えてるじゃないですか(笑)今までの話踏まえると、キーワードの中でも“漫画”は唯一読むものですね。

そうね、でも億劫になってきちゃったな。昔は新刊が出るのが楽しみだったけど、今は昔ほど貧乏じゃないし好きな漫画をばんばん買えちゃうって思うので、全然ありがたみなくなっちゃいますからね(笑)

お金持つとよくない、と?(笑)

どうなんでしょうね。ただ、危機感を持たなきゃいけないなと思いました。新しいものを仕入れるアンテナや新しいものを受け入れる器をちゃんと持っておかないといけないなって。漫画は昔からちびまる子ちゃんのように、日常を描いているのが好きですね。同じ世代のデザイナーにちびまる子ちゃんやアンパンマンが好きな方がいて、いい作品を作るんですね。育んでいるな、感性、と思いました。

国民的に支持されるものってやっぱりすごいですね。
完全プライベートのつもりでハマり始めたものでも、どこかで仕事に関係してくることってあるんだなと実感しました。

1人では踏み出せないところに連れて行ってくれる人を

で、占いの結果どうですか?

今までの、占いの時間だったんですか?(笑)

占い結構好きなんですよ(笑)

占いほどありがたいものじゃないですけど、裕一さんは先じて物事を捉えているタイプだなって思いました。

先んじて捉えているタイプではない、と自分は思ってるんですよ。人生、行き当たりばったり。

思いっきり外れたじゃないですか(笑)でも、言葉を選ばず言うと、行き当たりばったりではあるけど、「行っちゃダメなところには行かない行き当たりばったり」な気がします。

それはね、自分にとって弱みです(笑)怪我しないようにしてる。崖のはしっこには立つんですけど、飛ばないですね。そのようなことができたら、もしかしたらもっと何かでブレイクしていたかもしれない気がするんですよね。

それはこれから先も飛び越えようとは思わないんですか?

なんか無理ですね。自分の芸風に合わない。…っていう風に言い聞かせてるからダメなんでしょうね(笑)でも、とっさの判断で絶対やらない、1歩を踏み出さない。

今まで踏み出しておけばよかったなってことはあるんですか?

わかんないですね。1歩踏み出してないから(笑)
ライブとか行くじゃないですか。もみくちゃにされるときに、「も」ぐらいまでは行くけど、ちょっと体験したら下がって安全な場所でウェイウェイってやるんですよ。後ろの方でなんか腕組んで見てるっていうのもなんだし。これは自分の一歩踏み出さないことを物語っていると思いますよ。間違いは犯さないですね。ただ、ぼくが知らないだけで「あいつやってんな」って思われていることもあるかもですが(笑)

でも自分が1歩踏み込めない危ないところに行けるような人に出会ったら、ちょっと状況が変わりそうですね。

まさに鈴木敏夫さんのテーマとしては、宮崎駿さんとどう仕事をするか、彼の作品をいかに届けるかということでしたね。清人さんもそうですが、田中の中では面白い人たちばかりなので、彼ら彼女らと色々とやっていきたいですね。なので、年下のメンバーから「あいつ使えませんね」って言われないよう努力をします。そして、10年後とかに仕事くださいって若い人への媚びは売っていく所存です(笑)

それも含めて、ちゃっかりしてるところはちゃっかりしてるなって感じました。

不器用なので、ちゃっかり感覚はないんですよね。人と仕事をしているので、守るべきものは守ろうという感じですね。

なるほどなあ。さっきの距離感を掴むのが得意という話と同じですね。

そう。だから「この人だけと付き合う」っていうのはないですね。仕事で競合のチームがあっても、お互いの超えちゃいけないラインが当然あるので、それは越えずに、そのチームに合わせた振る舞い方はしますね。それが心地よい距離感だと思っています。

なるほど。場ごとの雰囲気とか文化を捉えた上で、自分がどう立ち回るかを決めることを大事にされているんですね。

うん、まあそこにいる人たちの空気感に任せますね。すごい簡単に言うと、「何もない」ってことです(笑)何ない人。

そんなことないですよ。でもその「何もない」の真意を聞くことができたインタビューでした!