「通路の中の交差点のような場所に」 ”BoockcafeDOOR松江”店舗づくりへのこだわり | DOOR-MAGAZINE 「通路の中の交差点のような場所に」 ”BoockcafeDOOR松江”店舗づくりへのこだわり | DOOR-MAGAZINE

「通路の中の交差点のような場所に」 ”BoockcafeDOOR松江”店舗づくりへのこだわり

面白い人や本と出会ったり、その場にいる人たちがアイデアを出して何かを生み出したり、事業者同士がつながり合って新たな挑戦をしたり。"Bookcafe DOOR"はそんなまだ見ぬ未来を創り出す場として、兵庫宝塚と島根松江に店舗を構えています。 普通のカフェとは全く異なる機能を持った、"BookcafeDOOR"のお店はどのように考え、設計されて作られたのでしょうか。 今回は松江店の店舗設計について、お話を伺いました。

「とことんライトなコニュニケーション」を求めて

ーー松江店を作る時も、宝塚店と同じような「コニュニケーションのグラデーション」という考え方で設計されたんでしょうか?

近藤:松江は宝塚と同じようなデザインやけど考え方は違うねん。使ってる素材が一緒やったりするから「同じような感じですね」とよく言われるけど、僕の中では明確に違ってて。松江店は「廊下」や「通路」を作ろうっていうイメージやったね。お店全体が通路で、交差点みたいにならないかなと思って、通路の中にDOORがあるという状況を作りたいと思って。

ーーーーそうだったんですね。ちなみに松江店も2・3日で設計されたんでしょうか?

近藤:ここも2・3日でやってますね。「カタリスト」っていう触媒とか、「文化」「芸術」「生活」「止まり木」「交差点」「るつぼ」「サロン」っていうようなイメージの中で、本棚があって普通に座ってる人がいたり、作っている人と飲んでいる人が、全く同じ天面の上にあるということに拘ってて。宝塚は作る人と作業や話したりする人が分かれてるけど、松江はそれさえもなしで全く一緒。カウンターを作ると「単なるカフェ」になってしまうと思って。通路として行ったり来たりとか、ちょっと腰掛けたりとか、すごくライトなコミュニケーションでそこで話を展開したり、何してるんですか?とか距離を近づけるイメージとして作ったね。

ーーなるほど。じゃあカフェのスタッフの人たちが、人と人との架け橋になってコミュニケーションをとる役割が大きいんですかね。

近藤:そういうイメージはあった。もちろんカフェのスタッフだけじゃなくて、デザイナーとかが同じテーブルに着く中で話しやすいシチュエーションっていうのを作り、いろんな人が通っていって、ちょっと腰掛けたり、なんかやってるっていうのを聞いて来るとか。そういう場所にしたいなっていうのがあったから、見た目はそんなに変わらないんやけど、設計上のコンセプトは全く違う。ちょっと寄るとか、そういう風なコミュニケーションにしたいなっていうのは思ってたんよ。

ーー「誰かおるかな〜」って感じで、ふらっと来る感覚でしょうか。

近藤:そう。宝塚はどちかというと、家でなかなか仕事しづらくて来るとか。松江は街の止まり木みたいな感じで、「さっきあそこおったよ」みたいにしたいなっていうのがあったね。

フラットさの中に少しの「世間」を作る

ーー1番のメインとなるのは大きなテーブルのところだと思いますが、他にも席はあるんでしょうか?

近藤:一応端に2席とクッションがあるけど、メインはここやな。これは設計上の話やけど、元々の水回りを一歳動かしてなくて。どういう風にすれば水回りを動かさず、低コストでこんなことが実現できるかと思って一旦全部描いてみて考えたね。完全オープンスペースやから、カフェとしてどっちが落ち着くかって言われたら宝塚店の方やろうけど、ただその代わり隣に座った人と仲良くなれるよね。インテリアって心理学の積み重ねというか、そういうので作られてるんですよ。ここがメインだからチェアはアーム付きのものにしてて、なんかそこに座ってたら家族みたいでしょ。

ーー確かに、松江店は集まった人と人との交流が活発だとスタッフからも聞いたことがあります。

近藤:バーとか行ったら、たまたま隣に座って、喋って帰るっていうことってあるやん?大きいテーブルがあってその中で喋るのを、それと同じような状況にしたいなと思って。あと大きいテーブルやからこそ、ちょっと緑を置くことで「世間(せけん)」を作り出せるんよ。世間ってどういう風に作るかって言ったら、見えてるけど見えてないっていうその世界観を作ることなんやけど。見ようと思ったらもちろんそこにいるし、見まいと思ったら見ない。結界もそういう感じで、壁なんかなくて縄だけで区切ってるけど、こっからが違うんだっていう認識が世間であるよね。だからこれも世間を作るために、あちら側こちら側って見えてるねんけど、向こうの人と気を使わなくてもいい、でも一回話したらそのまま話せるっていう風にしてる。

ーーなるほど、簡易的に空間を区切っているってことですね。

近藤:そうそう、簡単に言うとパーテーション置いてるみたいなことやね。

「こんなところがあったら嬉しい」を考えて

ーー次に松江店の照明についてお伺いしたいです。テーブルの上に置いてあるランプは宝塚店のものと似てますが同じものでしょうか?

近藤:ランプは宝塚と少し形は違うんやけど、あえてちょっとクラシックにしてるね。照明は上の間接照明で全体を明るくして基本照度を保ちながら、あとは手元のランプがあったり、スポットライトがあるっていう一般的な照明の作り方ではあるんやけど。ただあんまり強弱をつけちゃうと通路としての機能をあんまり果たせないんよね。だから照明はそんなにテクニック的なものじゃなくて、基本照度を間接照明でとってスタンドライトで雰囲気出してるって感じ。

ーー松江店はフラットっていうイメージが私も強かったので、確かにそう考えると照明も全部同じ明るさっていうのも関係あるなと思いました。それは松江の土地や人柄っていうのも関係あったんでしょうか。

近藤:最初に考えたのが「止まり木」とか「交差点」だったから、そう考えたら入り組んだようなものじゃない方がいいなとは思ってて。通路としてのデザインっていうのは頭にありつつ、自分やったら「こういうところがあったら嬉しいやろうな」っていうのを考えてたね。例えばパッと行ったら僕たちみたいな何かを作ってる人がいてたり、「ちょっとコーヒー入れてよ」とか言って座ったら、隣に座った人が知ってる人で、とか。ふらっと行ったら知ってる人がいて、ちょっとそこで話するみたいな、止まり木的なところがあったら僕やったら嬉しいだろうなと思って作ってたね。

ーー実際松江はそうなってる感じがしますね。行ったら知り合いがいっぱいいるみたいな話も聞いたことありますし。そういうのは松江の土地柄にあってたのかなって思いますね。

近藤:あってたのかもしれんね。宝塚は郊外やけど、松江はどっちかというと街中やからそれもあると思うけど。そこまで深く今の状況になるために設計してるというよりは、時間的制約がある中で、こういうプレゼンテーションがしたいとか、こういう風に集まれるとか考えてて。宝塚と同じような素材使ってるけど、そこで起こるコミュニケーションっていうのが全然変わるのおもしろいでしょ。

「DOOR」に込めた想い、カフェであることの可能性

ーーちなみに松江店は「地元企業エコシステムを作る」っていうコンセプトですけど、宝塚店を一言でいうなら何かありますか?

近藤:松江の時は事業戦略としてしっかり考えて作ったけど、宝塚の時はそこまで考えてなかったっていうのが正直なところやね。ただ「DOOR」って名前をつけたのは、エントランスっていう意味を込めてて。子供の頃とか、学生の時もやけど僕もデザインとかクリエイティブなことに触れる機会がなかったから。そういう中で隣でデザインしている、隣でプロジェクトが立ち上がっているっていうようなことに触れてもらうための場所にしたい、っていう気持ちがあったんよ。だから「DOOR」っていう名前にして、みんなフリーで好きなところ座ろうってしてるね。

ーー私もそういう機会がなかったので、触れられる場所があるっていうのはすごく良いことだなって思います。少し話が脱線してしまうんですが、カフェは以前からされていたんでしょうか。

近藤:宝塚の前からカフェはやってたね。前にカフェやってた時は、「一つの街を作る」っていうコンセプトでやってて。事務所があってその周りに建物を建てて、その周辺を一つの街って呼ぼうと言っていたんやけど、そうなったら止まり木的なカフェがなかったらあかんのじゃないっていう提案をして作ったんよね。ただ事務所とは道を隔ててたのもあって、宝塚の移転の時にせっかくやったら一緒にしたいなって。カフェって正直全然儲からんのやけど、なんか可能性を感じてるんよね。例えばカフェ休みの日とオープンしてる日やとちょっと雰囲気違うやんか。風通しの話やと思うけど、毎日違う人が隣にいるとか、もしくは隣に誰もいなくてもカフェとして営業してるっていう期待感みたいな。その辺はうまく言葉では言えないけど、留まってないっていうイメージがする。

ーークライアントの方を呼びやすいっていう利点もありますよね。

近藤:そうそう。「今度またいくわ」とか、僕がいなくても誰か来る、とかいう気軽さがあるよね。事務所やったらケーキ持って、行きますってアポとって、とかしか無理やろうなと思ったけど、カフェだと普通にお茶しに来はるからね。

まずはコンセプト、そして身体感を考える

ーー松江店の内装で、今後もうちょっと手加えていきたいなとかいうところはありますか?

近藤:松江がもうちょっと賑わってきたら2階を作りたいね。2階というか、部屋の上の空間に作れると思ってて、そうしたら茶室みたいになるやろ?僕茶室が好きなんですよ。経営のこととか相談するのに、やっぱり狭い空間とかの方が良いなと思ってて。もちろん集中とか作業っていう意味もあるけど、人対人のコミュニケーションがやっぱり違うやん。松江は「通路」だからそういうところ作りづらかったけど、もうちょっと活性化してきたら、そういうの作ってちょっと上で話しましょうとかしたいなとは思ってる。日本の概念の中で言うと、こっち側(入口)が表でそこから奥になっていくけど、例えば入口から入ってきて2階に上がったら、逆にこっち(入口)が奥になるんね。やから店内で「奥」がつくれるなという意味合いでは、コミュニケーションの質がちょっと変えれるなと思ってる。

ーーなるほど、そうすると確かにもっといろんなシーンで使うことができますね。最後に自身も身近なところでお聞きしたいんですけど、例えば自宅のインテリアを決める時に、ここから決めていくみたいなのってありますか?

近藤:やっぱりまずはコンセプトやね。どういうコンセプトにするかっていうところから始まって、どういう身体的負担をかけたことによって何が得られるか。例えば神社とかも一緒で、鎮守の森系の神社もあるけど、階段登っていく系の神社もあるやん。鎮守の森があるのはなんでかって言ったら、その鎮守の森を通って行ったことによって清められたっていう身体感で、階段を登っていったことによって自分が清められたっていう身体感があるんよ。だからどういう身体感を持って、その空間を構成するかっていうことを考える。もし部屋が二つあったとしたら、帰ってきた時に一つ目の部屋でどんな感じ、二つ目の部屋でどんな感じになるか。例えば一つ目の部屋は寝る部屋にしたい。もう一つの部屋はリモートがしたいとか食事をしたりしたいとか。そうなったら活動のイメージってあるやん、その時間の流れ方とか。そうなってくると、どういう風なレイアウトにするべきかとか、どういうような照明にするべきかっていうのが見えてくる。それがコンセプトで、そこに身体性を加える。同じベッドがあっても、ベッドの上に座ることもあればベッドを背もたれにして座ることもある。食事したり全部をそこでしちゃうっていうのもあるだろうし、ここで食事したくないっていうのもある。そうなったらテーブルのところでサイドチェアでずっといるっていうのもしんどい。そうしたらラウンジチェア系のものにしようってなる。例えばデートでもいいし、大切な話をするときを思い浮かべて、どういう店を選ぶってなったらやっぱり暗がりのある横並びのバーとか選ぶやん。もちろんワイワイガヤガヤしてる居酒屋で話すこともあるかもしれないけど。こういうシチュエーションでこういう話をしたいから、だから横並びの方がいいんだろうか、正面がいいんだろうか、明るい方がいいんだろうか、暗い方がいいんだろうかっていうのを考えるのがインテリアデザインの重要なところなんよ。店舗とか自宅とか関係なくそれは一緒で、どう過ごしたいか、どういうコミュニケーションをとりたいか。インテリアの面白いところって、グラフィックも入ってくれば、照明も入ってきたり、製品も雑貨も入ってきたりする。その一つでも違うニュアンスになってたら空間が全部変わって。それがあるだけで空間全部濁っちゃうとかっていうのもあるからね。

この記事で紹介されたもの

BookcafeDOOR松江店

新しい取り組みを生み出す島根県・松江にあるコ・クリエイションカフェ。

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